
宮崎さんという医療関係で働いているトレーナー仲間がいます(実名出すのは許可を得てます)。
先日の私のブログが興味深いということで電話をもらいました。
「この前のブログで、高齢者に筋トレさせて3ヶ月後に筋力が上がってましたね。
最大筋力の何%で負荷をかけていたんですか?」
トレーニング変数がどうだったのか気になったようです。
彼はリハビリの現場で働いていて、患者さんに筋トレを勧めることがあるものの、「きつすぎるトレーニングは嫌がられるし、続けてもらってなんぼだから、高負荷をかけるべきか迷う」とのこと。
私が掲載した研究では、高齢者でも最大筋力の60%〜80%の負荷をかけることで、筋力が40%アップしてました。現場では「本当にそれをやって良いのか?」と悩むことが多いのだと思います。
私も昔、石田内科循環器科のメディカルフィットネスでトレーナーをしていたので気持ちは分かります。
今日はこの辺りを考えてみたいです。
高齢者の筋トレに「高負荷」は絶対条件なのか?
よく言われるのが、「筋肉を鍛えるには強い刺激が必要だ」という話。
確かに、ある程度の負荷をかけることは大事。
でも、その「ある程度」がどこまでなのかが問題です。
宮崎さんが気にしていたのは、高齢者に高負荷をかけたら、「かなりきつい」と感じてしまい運動が嫌になってしまうことを気にしているということ。
結論から言うと、高齢者の筋トレに「高負荷」は絶対ではない。
その証拠となる研究が次のとおりです。
イラストA

道下らは踏台昇降、室内用自転車、ウォーキング、ジョギング(スロージョギング)を組み合わせた運動を12週間行うことで筋肉のサイズが5%増加したと報告しています(イラストA)。また踏台昇降のみ行った研究では8週間で膝伸展筋力が10%増加しています(イラストB)。
イラストb

前者は平均年齢が55歳、後者は45歳と高齢者ではないけど、筋力や筋サイズともに成果が出ています。運動強度は両研究とも乳酸閾値の有酸素性運動を実施してます。一方、先日紹介したGabriel Nasriらの研究では、筋のサイズは10%増加、脚伸展筋力は40%以上増加しています(イラストC)。運動強度は最大筋力の60~80%で実施しています。筋力、筋サイズに関しては普通に筋力トレーニングした方が圧倒的な効果が得られます。
イラストc

ただし効果を出すために上限付近の強度ばかりに着目するのは問題があります。それは「きつさ」です。最初の2つの研究は乳酸閾値なので「ややきつい」程度です。しかし、Gabriel Nasriらの研究は最大筋力の60~80%で10回挙上、2〜4セット、週3回実施しているため「かなりきつい」と予測できます。継続するためにはいかに心理的な負担を軽くするかが鍵です。最初の2つの研究は有酸素運動ですが筋力と筋サイズの観点から見た場合、筋トレと同じような効果が出ています。道下らが採用している負荷を「下限」と捉えるなら、どんな強度を掛ければ良いか自ずと分かるはずです。強度が高くないと意味がないはずがなく、Gabriel Nasriと道下ら中間の負荷でも工夫次第で効果が出るはずです。
もう一つ問題があるとすれば、「手軽さ」です。Gabriel Nasriらは筋トレのマシンを使っています。チェストプレス、ラットプルダウン、ホリゾンタルロウ、レッグプレス、レッグエクステンションとどれも高価な器具ばかりで手っ取り早く筋トレできません。エビデンスと同じ効果を得たいなら、毎週3回ジムに通う必要があります。一方、上述の2つの有酸素運動の研究は「ややきつい」程度で、しかも踏台昇降やウォーキングといった手軽な運動様式です。ということはトレーニング処方にはもっともっと多様性があって、工夫の余地があるということです。おそらく他の研究者たちが筋力を伸ばすために、強度を下げても効果が出ている報告しているはずです。患者さんにより良いリハビリ、トレーニングを提供しようとするなら、それらを調べる必要があります。
なぜ低負荷でも筋力が向上するのか?
運動処方の基本原則として、「閾値(しきいち)」というのがあります。
これは、「ある程度の負荷を超えれば筋力が向上するが、それ以下では効果が出ない」というもの。
まるでスイッチのオンとオフのような感じです。
しかし、高齢者の場合、この「閾値」が若い人よりも低くなっているというのを専門書で読んだことがあります。
つまり、若い人が70%の負荷をかけなければ効果が出ないところを、高齢者は50%でも効果が出るということです。
だから、「高齢者にも若者と同じように高負荷をかけるべき!」というのは良いのですが、そこまで負荷を掛けなくても大丈夫ということです。
それよりも、「ストレスの軽い負荷でしっかり継続することで、十分な効果を得られる」という考え方を持つべきと思います。
トレーニングに必要な「楽しさ」という視点
ここで、宮崎さんが言っていた「病院の患者さんが嫌がる問題」に戻ります。
確かに、いくら「これが正しいトレーニングだ!」と言っても、本人が続けられなければ意味がない。
だからこそ、負荷だけにこだわるのではなく、「楽しく継続できるかどうか?」の視点を持つことが重要になります。
例えば、スロージョギングは、高齢者でも負担なく続けられ、しかも筋力向上の効果があります。
私のジムでも、「膝に負担が少ないから続けやすい!」と好評をいただいています。
つまり、「60〜80%の負荷でやらないとダメ!」と決めつけるのではなく、その人が続けやすい方法を提供することが、トレーナーや医療従事者の役割なのではないかと思います。
負荷だけでなく、継続できる環境を作ることが大切
宮崎さんの質問は、「高齢者に高負荷をかけるべきか?」というものだった。
結論としては、「高負荷が必要なわけではなく、それよりももっと低い負荷でも十分に筋力を向上させることができる」ということです。
現場で指導する立場として、「高負荷にこだわりすぎて、結局続かない」というのが一番もったいない。
それよりも、「楽しく継続できる運動」を提供することの方が、はるかに重要ではないだろうか?
これからも、「高負荷をかけなければダメ!」という固定観念にとらわれず、一人ひとりに合ったトレーニング処方を提案していくことが、トレーナーや医療従事者の役割だと思っています。
この話が、少しでも筋トレに興味のある方や、高齢者の運動指導に携わる人の参考になれば嬉しいです。
また、新しい発見があればブログで紹介していこうと思います。
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